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updated 2009-09-16



高島には2つ年下の恋女房がいた。大学時代に趣味で始めた長唄三味線のお師匠さんの姪っ子で、何の用もない様子で時々フラっと遊びに来ていた裕子に高島が一目ぼれした格好だった。
その後二人は、高島が銀行マンとして順調にキャリアを積み、25歳の時に主任に抜擢されたのを機に結婚した。
裕子は高島と違って物静かな女性で、殆ど無駄口をたたかない理性的な女性で、そんな賢いところが高島にとっては魅力であった。彼女にはその無口さが原因か、これといった友人もいなかったが、一方で敵もいなかった。また人の悪口を彼女の口から聞いたことがないのだが、常に自分自身の内側に心を向け、自らの欠点や短所に目を向けることが最大の特技の持ち主でもあった・・・
高島が独立を決意した時も裕子はそのこと自体には何一つ文句も反対もしなかった。ただ一つだけ、、、それは「決して人の悪口だけは言わないでね。そうすればあなたはきっと成功するから」の一言だった。
「人の悪口ねえ・・・」
「・・・・・」
「それが仕事の成功と関係あるのかい?」
高島は率直に、しかし少し納得いかない様子で裕子に尋ねた。
「ええ、もちろんよ。もし足を滑らしたら、あなたはきっと骨折するでしょ?・・・それと同じでもしあなたが舌を滑らしたら人様の喜びや幸せをぶち壊してしまうことになるですもん。それは骨折と違って取り返しがつかないわ」
「ほう、なるほどねえ」
「今、あなたを導いてくださろうとしているお方のことは当然、その他にも仲間や仕事先で出会う方、それから特にあなたにとって下の立場の方には特に気を使ってね。みんなが幸せと喜びでいられるような話だけをするようにすればきっとあなたは大丈夫よ!」
「ふーうん・・・そっかあ」
「ええ、信じていますから、それ以外は何の心配も私はしていないのよ。ご存分にお働きくださいね」
普段あまり余計な口出しをしない女房からの一言は高島の胸にズシンっと響いた。

「しかし、おれにそれが出来るんだろうかねえ?・・・ついついおしゃべりが過ぎて言わんでもいいことをお節介したり、ついつい人の批判をしてしまうからなあ・・・」
「・・・・・」
「ところでさあ、こないだ、例のオヤジさんから宿題をだされたようなかんじなんだけどさあ、ちょっと心に引っかかっているんだよね」
「・・・・・」
「仕事は感情で決めてはいかん。己を知れ、カエルは田んぼへ帰れ、って言うだよ。全く変はオヤジだろ?」
ってついつい口を滑らしてしまったことに気付いた高島は無言ではあったが明らかに「しまった!」と呟くのが聞こえた。
そんな夫を裕子は少し微笑ましく思いながら、
「へえ・・・カエルが田んぼへカエろねえ・・・」(笑)
「ダジャレじゃなくてさあ!」
「ごめんごめん。。。でも確かに自分を知るって大事よね。多くの不安とかって原因を探っていくと物事に対する無知ってことになるのかも・・・」
「ふーん、確かに・・・おれも銀行で多くの融資を担当したけどさ、見ず知らずのこの人に大枚を貸すって行為は、とっても不安がつきまとうにも関わらず、あっさり何事もなかったように与信するんだからなあ・・・」
「・・・・・」
「あれって今思うと凄いことだよなあ」
「そうね、確かに。何億ってお金を貸すか貸さないか決めるんだもんね。それをいともたやすく、何の不安もなく決断するっていうのは、相手を知っている自信と己自身の力量を知っているからってことでしょう・・・?」
「そりゃそうだよ。その為に調査部があるんだからなあ銀行には」
「占いみたいね・・・」
「まあ、そうかもな。ある種の占いだな、確かに。言われてみりゃそもそも占いってのは統計学だしな・・・」
妻との他愛もない会話を高島はとても好んだ。仕事の話やら人生の話やら、なんやらかんやら止めどもなく話すのが好きだった。
「で、あなたはどうなの?今の仕事は自分に合っていると思ったの?」
高島は言葉に詰まってしまった。
(おれは感情で物事を決めているんだろうか?本当に自分自身を知っているんだろうか?オヤジさんがいうようにこの独立はおれ自身の田んぼと自信もって言えるんだろうか?)・・・
「おれは一体・・・」
・・・to be continued