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updated 2009-09-16


首都圏の、と或る国立大学を可もなく不可もなく、とは言ってもそこそこ優秀な成績で卒業した高島は、多くの学生が憧れる、大手都銀の一つに就職した。
その後、彼は一生懸命銀行マンとして働く一方で、一生このままでは同期のライバル達、いや、後輩達にさえ勝ち目がない!ってことも少しずつ悟りはじめていた。
だが幸い高島は実に社交的であり、楽天家でもあった。そんな不安を抱きつつも、訪問先のお得意様たちからは信頼されるだけでなく、妙に可愛がられてしまう、得な性格の持ち主でもあった。
それゆえ彼の仕事ぶりは銀行マンとしてもある程度、他に秀でるに充分な成績、ヒョッとしたらこの業界で大成出来るんじゃないか、って思わせるくらいの成果をあげていた。
当然のこととして、顧客からだけではなく、そんな高島を上司も愛し、なんだかんだ理由つけては高島を飲みに誘いだす日々であった。
だが彼の中には将来への不安、というよりも「銀行マンとしての限界」をどうしても打ち消せずにいた。どんなに顧客に可愛がられても、或いは上司に覚え目出度くとも決して乗り越えられない壁、自分にはない何かに悩まされていたのも実際のところであった。
「結局のところ、最後は人脈の世界・・・」
高島は心の中でそう呟くしかなかった。
そう、それは持って生まれた、としか言いようのない、努力ではもたらされないものだった。
旧財閥系においてはそのことは歴然としていて、会社に入るまではそんなことは露ほどにも思わなかった現実であった。
暗黙の了解とでもいうのか、不文律、或いはまた明治憲法じゃないけど、「神聖にして侵すべからず」的なものであった。
そんな高島も岐阜の地元ではそこそこ知られた名士の出身ではあった。
がしかし田舎のそれと、財閥に繋がるような出の者たちのとは、おのずと違っていて、やることなすことが想像を超えていた。とても太刀打ち出来る連中ではなかったのである。
「このままでは俺は結局のところ負け組だな!・・・畜生!あいつらよりも遥かに優秀な俺なのに、結局は閥がものをいうのか」
高島は心の中で一人、地団太踏むしかなかった。

それから10年が過ぎた。
銀行マンとしても社会人としても充分に経験を積んだ高島は勝負に出た。
「独立しよう!」
取引先の宝石商から「君ならすぐに有能な宝石商になれるよ。つまんない宮仕えなんか、さっさと辞めちゃって独立してみなさいよ」と、再三言われていたからである・・・
「否、そんなノウハウもありませんよ、私には」
「かまへん、かまへん。わてが導いてやるからのう」
「本当ですかあ! 私に本当に出来るんですかねえ」
「あのなあ、君も知っている通り、わてはこの業界で一番の男やで。そのわてが太鼓判押してんのや。大船に乗らんでどうする?」
「・・・・・」
「いいか、高島君。人生にチャンスなんてものは殆どないんや。でもなあ、誰にでも1回はその滅多にないチャンスってものがやってくるんよ。君が人生の師匠とわてを思ってくれてんなら、その誘い水に乗る方がええのやで」
「はあ、勿論、僕は父とも師とも思っていますが・・・」
「そないやったらさっさと決めてしまい。師の言うことには絶対のYESしかないのや、人生にはな」
「はあ、なるほど・・・」
「どないする?」
「分かりました。どうぞ宜しく頼みます」
こうして高島は、宝石業界の神と崇められているこの男の強い奨めに乗り銀行マンとしてのキャリアをあっさり捨てたのである。
それから高島はこの宝石業界の神の下で半年間必死に働いた。といっても殆ど何もすることはなく、ただひたすらカバン持ちをしながら、師匠が行く先々で自己紹介するだけの、まるで名刺を配ることしか出来ない男のように働いた。
「のう、高島君、君は最初の仕事をどないして決めたのかね?」
「いやあ、なんとなく・・・ていいますか、銀行マンはもっとも安定した職場だと思ったからかもしれません」
「あのな、仕事は感情で決めてはいかんのや。感情は瞬間的なものや。決して深いものじゃない。感情で決めたことは感情で終わってしまうのや」
「はあ。なるほど・・・」
「お給料が良いからとか、女の子にモテるカッコいい仕事とか、そんなんではあきまへんのや」
「・・・・・」
「自分の取り柄や知識や技術ってものをよーく理解し、まあ、自分を知らなきゃいかんってことだわな」
「はあ、そっかあ・・・」(ショボン↓)
「カエルは自分がカエルだってことを理解したならば、田んぼに行くべきってこっちゃ」
「カエルですか?・・・」
「そうや、カエルじゃよ」
「ではカエルは一生カエルのままで、田んぼからは抜け出せないんでしょうか?」
「なかなかいい質問だの。そこが問題じゃ。そこんところをもう少し、わてが行く先々の連中を観察しながらでもよーく考えてみい」
・・・to be continued