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updated 2009-09-16
弓月の本音の言葉に、七夜は目を丸くしながらも、
尊きものを心の奥でとらえていきます。
そして、今までとは価値観が変わっていく、
むしろ、自分がずっと探していたものに出会えるような予感を胸に、
旅立ちます。
「それとね、その友人が出産前に、絶対安静で入院してた時期があったの。
時々お見舞いに行ってたんだけど、ご主人が毎日仕事帰りに寄って、彼女に
ご飯食べさせてあげててね。」
「へ~。」
「で、食事が終わると、奥さんの大きなお腹に手を当てて、お腹の赤ちゃんに
一生懸命いろいろ話しかけるのよ♪
そうすると、お腹の赤ちゃんが答えるように動くの!」
「へ~~~!」
それはすごいなぁ。
赤ちゃんは、何に反応してるんだろう?
お父さんの声? お腹に手を当てる温かさ? 両親の愛?
お腹の中から何か感じ取るって、スゴクナイ!?
「そんな2人の姿に、胎児をいれたら3人ね♪ なんとも言えない深い絆を感じてね。
命が誕生するって、人智を超えた営みなんだなと思ったわ。
結婚も出産も子育ても、神さまとの共同作業かもしれないなぁ、って。。。」
「はぁ。。。」
「それでね、ご主人と病院を一緒に出た時にね…。
子供が授からなくて悩んでいた時も、妊娠中に気持ちが不安定な時も、
安静で入院している今も、いつも妻を励ましてくれてありがとう。
それがどれだけ彼女の支えになったか。これからも、妻をよろしくお願いします。
って、目を真っ赤にして言うのよ…。」
「……。」
そのご主人の姿が浮かんで、奥さんをいたわる気持ちが伝わってくるようだった。
目頭が熱くなって、カップを持つ手が震えてしまった…。
「はは、なんか、泣けますね…。」
「涙がでちゃったわ。ご主人と一緒に笑顔で泣いちゃった…。」
弓月さんの目にも、涙がにじんでいた。
「七夜ちゃん、わたしね、結婚って尊いなぁと思った。
まったくの他人だった男性と女性が信頼しあって、愛し合うと、
その夫婦のあいだの愛が、神さまからいのちを授かるんだもんね。
それが親子の愛に広がっていって、
親にも子にもご先祖さまにも感謝できるようになって、
周りのすべてを慈しむようになって…。」
「すばらしいですねぇ…。」
「ねぇ。」
もちろん、世の中には、いろんな夫婦や親子がいるのは知っている。
結婚のかたちもさまざまだろう。
でも、今日わたしは、弓月さんの友人の話を聞けてよかった。
「だからね、七夜ちゃん、自分を大切にしてね。」
「はい。」
「七夜ちゃんが、出逢うべき人はたった一人だし、相手の人にとっても、妻となる人は
たった一人。きっと、七夜ちゃんが自分と向き合ってから出逢っていくと思うわ、
信頼と信頼、愛と愛で本音で付き合っていける人たちに。」
自分を大切にしてね、という言葉がとても嬉しかった。
今まで、早く彼氏つくりなよ、と心配してくれる友人はいても、
こんな風に言ってくれる人はいなかったから…。
「私ね、結婚前に彼氏・彼女の関係、必要ないと思ってるんだ。」
「え?」
「信頼が確かなものなら、あとのことは結婚してからお互い詳しく知っていったら
いいでしょ?」
「え、でも、そーしたら、相手との相性や条件、どうやって確かめるんですか?」
なんか、意外な言葉を聞いた。
むしろ、結婚を意識したらお付き合いしてしっかり確認した方がいいと、
弓月さんは言うかと思ったから。
「七夜ちゃん今日ね、もう一つだけ、紹介したい言葉があるんだ。」
今日、人が人生の伴侶を選ぶとき、最初に考慮されるものは
外見の魅力や見た目の美しさです。
次には生活の基盤となる経済的地位が考慮されます。
相手がどれだけ金持ちなのか?
相手の収入はどれほどなのか?
学歴や家族の社会的地位といった要素も
その後に考慮の対象となります。
単なる見かけや表面的な飾りに目を奪われ人々は結婚生活に入り、
家庭生活の崩壊というみじめさの中に陥ってしまいます。
家庭がもしそのような薄弱な基盤の上に築かれるとするなら、
家庭の安定はあり得ません。
最も大切なことは
根本的な必要条件である善良な人格、寛容や忍耐、愛や奉仕の精神
という高い理想に目が向けられなければならないということです。
外見の美しさが色あせ、富が底をつく時、
夫婦の関係もまた弱まります。
「もちろんね、お互いが自立して家庭を築いていくための最低限の条件は必要だけど、
それはお付き合いしなくてもある程度わかるだろうし。
それより、自分の気持ちをふるいにかけた方がいいと思うの。」
「自分の気持ち? 相手の気持ちを確かめるんじゃなくて?」
「そう、自分の心が決まればすべて決まるんじゃないかしら?」
「…。」
「本当にその人を信頼して、一生ともに生きていこうと思う気持ちが真実かどうか、
相手じゃなくて自分を見つめて、自分を磨くことが先決のように思うわ。」
「う~ん…。それって、自分と相手を信頼して結婚を考えたら、付き合わずに
結婚するってことですか?」
「そう。両親にはちゃんと承諾もらってね。」
「う~ん…!」
うなりながら紅茶を飲んで、思わずむせてしまった…!
つまり、ボーイフレンド・ガールフレンドの関係はいらない、ということか…。
サークルの仲間が聞いたらビックリだな…。
しかも、ルックスや収入より、必要条件は、いい人柄や忍耐や愛…。
「これは私の考え方だからね、聞き流してくれていいのよ。
ただ、七夜ちゃんには、自分も相手も大切にしてほしいなぁ、と思っただけ。」
「はい。それはわかります。」
「それにね、数年お付き合いしたら、今はたいがいのカップルが、身体の関係まで
いくでしょ?それこそ、結婚してからでいいんじゃないのかなぁ、って感じる。」
「そのへんは、確かに…、ちょっと今の世の中、軽いかも…。」
「いのちを生みだす性って、尊いよね。。。
生涯の伴侶となる人とだけそのような関係になれたらいいのにね…。」
「う~む…。」
驚きと、納得と、意外さと…。でも!うなずける部分と…。
「私って、古いかしら? 笑 」
「あ、いえ、べつにそーは思いません。 私の方こそ、サークルの安易な恋愛とかに
ウンザリしてたはずなのに、みんながそうしてるから、っていう理由だけで、
恋愛も結婚もその他いろいろ、周りを基準に考えてたんだなぁ…、と今気付いて。」
「自分の良心がどうなのか?を、基準にできたらいいわよね。」
「自分の良心がどーなのか?」
「そう。」
弓月さんが、自分の胸に手を当てて言った。
なるほど、それはそーだ。
「じゃ、弓月さんは、想っている人と付き合いたいと思わないんですか?」
「思わないなぁ。 結婚して、ともに子育てできたら楽しいだろうな♪とは思うし、
一緒にやりたいこともいっぱいあるけどね。」
「え、もしかして、自分の気持ち、伝えてないんですか?」
「うん。」
「ダメですよー! 想ってるだけじゃあ、気持ちは伝わりませんよ!」
「ふふ、七夜ちゃん、まるで、うちのおじいちゃんと同じこと言うのね♪」
「そりゃあそーですよ!
ぼやぼやしてて、その人が誰か他の人にとられちゃったら、どーするんですか!?」
弓月さんが、チラっと空を見て言った。
「この世はいっときの夢。 叶わなければ、それまでのことじゃー!」
「はぁ?」
「あ、いや…、そんなセリフを時代劇の戦国武将さんが言ってたなぁ、と思って。」
「ちょっと、弓月さ~ん、親身になってるのにぃ~!」
「はは、ごめん、ごめん、七夜ちゃん。私のことは大丈夫よ。ありがとね…。
それより、は・が・き、ちょうだいね♪」
あの時の会話を思い出し、電車に揺られながら、思わず苦笑してしまった。
まったく、思った通りのいい人だ!
なのに、自分のことは後回しにしてるみたいで、なにを考えているんだか…。
でも、大丈夫って、笑ってたな。。。
印象に残ることばの数々は、じつは私自身どこかでずっと求めていた言葉だった。
それを言ってくれる人がいた!
それらが、この旅のなによりも心強いお供のように感じていた。
手元のハガキを見た。
きっと出そう。
自分をさがして気付いたこと、どんな甘い蜜をみつけたか、
5枚じゃ足りないかもしれないな♪
窓の外には、青く連なる山々が、だいぶ近づいて見えてきていた。